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「……ホントに?」
何か府に落ちない顔の篠崎さんは、お茶を一口飲むと、考え込むように頬杖をついた。
私は…もう愚痴るのは止めようと、気持ちを落ち着かせるように、深呼吸をした。
ふと、右手の指輪が目に入る。無意識に指輪を触っていたらしい。
左手の人差し指が、指輪の横にあった。
これを貰った日…幸せな気持ちだった。
でも…桜井さんのことから、自分のことに考えが行きあたり…
こうして不安に支配されると、後ろ向きな自分が顔を出す。
ダメだな…こんなんじゃ。
「小万里ちゃん…もしかしたら、アイツも我慢してるのかも」
物思いに耽っていた私の耳に、思わぬ言葉が飛び込んできた。
「アイツさ、今回のことに責任感じてるし…仕事をきちんとすることで、上にも下にもけじめつけたいんじゃないかな。
だから…小万里ちゃんの声聞いたら、仕事放り出してでも逢いたくなるから…わざと遠ざけたんじゃぁないのかな。
まぁ、俺の憶測だけど。
俺も今回のことは、少なからず関わっていたのに、何もお咎めなしで済んだ。
だから、余計に仕事で頑張らなきゃ…と思ったし」
目から鱗だった。
実さんの気持ちを、考えてなかった。
そうだよね…
私だって…仕事頑張ろうって思ったもの…
いつの間にか、胸のつかえやモヤモヤは消えていた。
「篠崎さん、ありがとうございました。もうちょっと頑張れます」
笑顔になった私を見て、篠崎さんはニッコリした。
「良かった。笑顔になって。日に日に笑顔が消えて来てたから…さ。気分転換になったかな?」
「はい。…本当にありがとうございました」
私は、改めて篠崎さんにお礼を言い、すごい人の下で働けることの喜びと、友達でもある嬉しさを噛み締めていた。
篠崎さんの…笑顔の下の辛い気持ちに気付かないで…
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