報われぬ恋

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残業が当たり前の商品管理部… それでも、今日は金曜日ということもあり、いつもよりも早めに仕事が終わった。 篠崎さんとフクさんと配送担当の佐野さんの4人で、月曜日の確認をして終了。 デスクを片付け、皆に挨拶をして商品管理部を後にする。 篠崎さんが、目で合図をしていた。 ―行ってくるね 私は、行ってらっしゃいの意味をこめて、目を伏せた。 更衣室に入り、携帯電話を確認する。 あっ…先生からメール。 〈会社の前で待ってる〉 時間は…5分前だった。 〈今、終わりました。もう少し待ってください〉 と返信し、急いで着替えを済ませた。 鏡を覗き、髪の毛を整えると、いつものバッグとお泊まりセットの入ったトートバッグを持った。 よし! 小走りに玄関に向かった。 玄関ホールで、実さんを待ってるであろう篠崎さんを見つけた。 「急いでるね」 「先生が…義兄が迎えに来てるので」 早口でそう言って、小走りで通り過ぎようとした。 「もうすぐ、来るよ?アイツ」 一瞬、足が止まった。 でも…ここで会ってしまったら私も止まれない…そんな気がした。 「やっぱり…もう少しだけ頑張ります」 ペコッと頭を下げて、止めた足を玄関へと動かす。 振り向かない…そう心に決めて。実さんと、自分自身の為に。 私は先生の車へ急いだ。 シルバーのセダンの助手席側に、寄り掛かるように立っている姿が見えた。 うわっ…今日は仕事帰りじゃない。 銀縁の細めのメガネ、黒いシャツ、ブラックジーンズ… ヤバい…私服の先生は、やたら遊び人に見えて、女の人が放っては置かない。 案の定…会社のお姉さまらしき方々が、先生を囲んでいる。
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