第十章

15/15
前へ
/175ページ
次へ
 ……しばらくすると、大樹が部屋を出てきた。膨れた腹を押さえて。耕平はケラケラ笑いながら言った。   『加奈にきちんとお別れは言えたか?』   大樹はチッと舌打ちをしながら右手を上げた。   オレは大樹に、加奈は外まで見送りに来ないのかと聞いたが大樹は『外まで来たら泣いちゃう』と言われたと答えた。   オレ達はしばらくその場で立ち話をした後、アパートに軽く一礼をして、歩き出した。     大樹はアパートが見えなくなるまで、一度も後ろを振り向かなかった。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

114人が本棚に入れています
本棚に追加