1.ベランダ

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 ワタシの名前は加藤杏。いきうまの目を射抜くような現代をたくましく生きる11歳だ。  ワタシの家は卓郎とワタシの2人暮らしで、パパとママはいない。  使い古されているような言い方をするのなら、ママはお星様になった。パパのことはよくわからない。ママがよく言っていた言い方を借りるのなら、「パパはドロンしたのよ」ということになる。  物心ついてから一度も会ったことがないし、どこかにそういう人がいるんだなってぼんやりと思うだけだ。  だから、ワタシの家族は卓郎だけだ、と思う。  これはワタシが信じていることのひとつなのだけれど(ワタシには信じていること、信じようとつよく願っていることがたくさんある)、血が繋がっているから家族になるわけじゃないって、そうなるためには、もっと違うものが必要なのだと確信している。  何年か前、夏休みにテレビで、雨どいから流れ落ちる雨の雫が、何年も何十年もかかってその下にある石に雫と同じ大きさの穴を開けることさえあるのだという話を放映していた。  そのときまだ小さかったワタシは、直感的に家族ってそういうものだと思った。  毎日毎日、雫が石の上に落ちていきやがて小さな穴を作るように、日々の言葉や、笑いや、他愛のない喧嘩なんかが少しずつお互いの気持ちの中にお互いだけが入っていくことのできる小さな穴をつくっていく。  そういうつながりのあるもの同士が家族なんだろうって、そんなふうに思ったのだ。  そして、ワタシと卓郎の間には、雨のたどる軌跡のような透明な線が、絶対にあると思う。
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