序章:現出

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序章:現出

その日、シュロは何年かぶりに神に祈っていた。 「 くっ・・・いい加減どうにかしてくれよ神サマ!」 迂闊だった。何もかもが迂闊だった。 正拳に突いてくる敵の拳を受け流しながら敵の足を払い、水月を突き上げる。 そんないつもの連結技でさえも焦りと疲労で妙に遅く感じる。 倒れた相手の顎を踏み抜く。かかとに嫌な感触を覚え・・・そして消えていく。・・・敵の姿も薄らいでいく。 だがその直後、気配を感じて振り向くとさっき倒したのと似たような人影が虚空からうっすらと、だんだんはっきりと現れる。 ゴーストだ。 振り向いた勢いそのままに体ごと旋回させて後ろ回し蹴り、そのまま反動で正面のゴーストにも裏拳を見舞う。 愚痴をこぼしながらも手足は動かし、周りのゴーストを蹴散らしている。 対ゴースト用の武器がないと実体のないゴーストは倒せないため、シュロは拳に精神力増強武器:ブレイブ・ナックルを装備している。 赤い髪を逆立て、精神力増幅ブースターとなっているペンダントを首から下げている。 やや背が低いががっしりとした体格をもつ、シュロはそんな男だった。 「 ったく・・・これだけ大量のゴースト現象が起きるってのによりによってこんな時に予報を外してくれるとはね!!」 となりで同じようにしてゴーストと戦いながらモクレンがぼやく。 彼は日本人だった。もっとも世界が統一された今となってはそんな区別すら意味を持たないが。 黒髪を短く切り、こちらは精神力増幅を額にまいたバンダナで行っている。 軍から移籍してきたモクレンはマーシャル・アーツの使い手であり、彼もブレイブ・ナックルを使っている。 「 何ぶつくさ言ってるんだ!そっちでまた沸いてるぞ!!」 銃を持ったイスカが怒鳴る。金髪で眼鏡をかけている、知的さを漂わせた長身の男。 集中力をかわれてこの”ツヴァイ”にスカウトされた彼は珍しく、特に扱いの難しい精神力を射出する銃:サイ・バスターの使い手だった。 しかし援護射撃の立場でありながら彼までもが接近戦をしいられている。全くもって迂闊であった。 戦闘開始からもう3時間が経過している。ゴーストの沸きには時間差があるものの、それだけに休めない。 上の指示で張っていたゴースト現象地点が間違いだと気付いたはいいが、そのまま装備も整えずにこの大量のゴースト現象に突っ込んでしまった。
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