喝采

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一瞬なのか、長い時間なのかわかりませんが、私はその場から動けませんでした。何かを頭の中で整理しようと思って頑張るのですが、そもそも何を整理するのかわかりません。そんなはずはありません。だって、彼は死んだのです。何度も言いますが、その彼のお通夜とお葬式の為に神戸まで来ているのです。いったいどういう事なのでしょう?兎に角、私はここから進むべきなのか、引き返すべきなのか、それすらもわかりませんでした。立ちすくんでいると、彼はこっちを向きました。そして目を細めてじーっとこっちを見るとびっくりしたように、でも納得した様に笑って、私に手を振りました。とっさに私も手を振替したのですがすぐに違う人が私の後ろにいてその人に向けて手を振ったのではないかと思い後ろを振り返りました。でも残念ながら後ろに人は居なくて間違いなく彼は私に手を振っていました。 「瞳!おいで!」 今まで聞いた事無いぐらいはっきりと、大きな声で私を呼び手招きをしています。とりあえず私はそこに向かう事にしました。でもなんだか怖くて、進めません。その様子をみた彼は立ち上がって、私の方に向かってきました。 「久しぶり。」 彼は吐き出す様に、私の聞いた事無いリズムで、何も変わらない見た目で私に言いました。なんて言っていいのか判らなくてとりあえず 「久しぶり。」 と言ったつもりですが、あまり声が出ませんでした。 「そんなびっくりせんといて。俺に会いにきたんやろう?」 そうなのです。貴方に会いにきたのです。でも私が思っていたのはこんな会い方ではないのです。 「えぇ?え?どういう事?」 そうとしか、答えられませんでした。 「なんかなぁ、気付いたらここにおった。なんでなんかわからないけど、どうしても瞳に会わなきゃならなかったみたい。一つだけ瞳に返さなきゃならない物があったみたい。それが何かわからんねん。」
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