喝采

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 夏の終わりにたまたま行った知人のライブの打ち上げに彼は居たのです。彼の見た目と声とオプションの関西弁。目が合った瞬間の一目惚れは生きていてもう無いでしょう。彼は30歳にして仕事の為に初めて上京をしてきた変わり者で、東京にきてから初めての異性の知り合いが私でした。彼も彼で、一人で来た東京で優しくしてくれる女性に惚れない訳がありませんでした。その後二人で駆け込みの海にドライブへ行きました。雨がいつ降っても可笑しくない様な空の下、水着に着替えずに遊んだので足は泥だらけ、ジーンズは水浸し、靴下は何処へ行ったかわからない。そんな中二人で騒ぎながら必死に波を追うサーファーを眺めていました。  家に帰った後、久しぶりの幸せな感覚を一人で抱きしめながら枕に顔を埋めて寝ました。  その後も順調にデートを重ねたり、お互いの家を訪問したりしたのですが、一つだけ合わない部分があったのです。彼はお酒が飲めませんでした。私は週末になると、歓楽街に出向いて昼頃まで飲んでしまう程お酒が大好きでした。最もお酒が好きと言うよりは行きつけのお店や常連さん達が好きだったのですが、お酒を飲まない彼には理解出来ない行動だったようです。なぜわざわざお酒を飲みに30分以上も電車に乗って歓楽街に出向くのか。なぜそんな時間まで飲んでしまうのか。確かに普通の生活をしていればあり得ない行動かもしれませんが、何年も続けている趣味を男一人の為に辞める事は出来ませんでした。もちろん、私も遊びに行くのを控えたり彼との時間を最優先したりと気を使っているつもりでした。  些細な喧嘩をしてそのまま連絡を取らなくなっただけで、自慢の出来る様な自然消滅。少しばかり未練はありましたが、凄く納得の出来る別れでした。自分はお酒を飲まない人とお付き合いは出来ないのだなと勉強にもなりました。
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