喝采

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その次にきた連絡が今回のお母様からのメールでした。それまで彼は、私に一切の連絡をよこしませんでした。私も私でなにも連絡をしませんでした。神戸までの間、お母様からのメールを何度も読み返しました。これで終わったのだ。これで終わりにするべきなのだ。と自分に言聞かせて連絡をしませんでした。「こっちにきたらえぇ」とつぶやいた彼に返事を出来なかったのです。そこからは何も生まれないし、何も始まらないと思いました。お母様に会ったら、なんて自己紹介をすれば良いのでしょう。彼は、家族に私の話をした事があるのでしょうか?そんなくだらない事ばかり考えていました。落ち着かない新幹線で、ジーンズに旅行鞄で、たまに涙を流す私を、仕事へ向かうサラリーマンはどんな風に見ているのでしょうか。せいぜい失恋の傷心旅行程度にしか見えないのでしょう。旅行鞄にある喪服を見て、少しぐらいは同情してくれるのでしょうか? 神戸の繁華街は、私の実家の近所に似ています。彼と過ごした地でもあります。私の実家は東京なのですが殆ど神奈川県。都内の人間にギャグにされる事も少なくないのですが、中には本当に神奈川県だと思っている人も多いでしょう。東京都の都下の中では一番栄えてる土地だと私は思っているのですが、地方都市に行く度に私が「田舎者」と呼ばれてきた理由がわかります。最後に彼にここで会った時も彼は 「あの辺と似てるよなぁ」 と言いました。私は笑いながら 「もうちょっと栄えてるわ。」 と言いましたが、もう一度一人で来てみると何処も変わらないような気がしてしまいました。ホテルまでは歩いて15分程。少しだけ坂道の多い神戸の街を私は散歩がてら歩いてみました。初めて来た時はこの坂道が好きだと思えました。特になにもあの時と変わらない風景を、私は物珍しそうにいかにも観光客という出で立ちで眺めました。震災で立て替えたのでしょう、比較的新しい建物が並ぶこの街の風景が好きでした。前回来た時と何も変わっていません。短時間で変わるはずか無いのです。それでも、今彼とこの風景を見たら楽しいでしょう。あのとき見た風景と全く同じなのに。  
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