喝采

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彼とよく、表参道から青山を散歩しました。真冬の澄んだ冷たい空気に包まれながら意味も無く二人で歩きました。歩くたびにルートを変えても、町並みは少しも変わりませんでした。それでも二人で歩くこの道が、美しいと思えたのです。キラキラ光る表参道は、常に私たちをよそ者の様に迎えました。 「なんやろう、何度歩いても飽きひんなぁ。」 背伸びして入った奇麗なビルのテラスにあるバーで一服しながら東京の街を眺めていると、彼はそういいました。 「私も飽きないわ。修君の何倍も歩いた事ある道なのに。なんだか好きだわ。」 バーは場所のせいでしょうか、値段の割にはカジュアルなお店でした。パーティーの様に騒ぐテーブルもあれば、仕事の話をしているのであろうサラリーマン。私たちのような恋人同士は、テラスで同じ様に夜景を眺めていました。私は高いだけのいつものビールを飲んで、彼はコーヒーを飲んでいました。  私が彼のそばに行けなかった理由に、東京が好きだからという理由もあります。東京生まれ東京育ちの私が、大人になってから地方に来て上手く生活出来る自信がありませんでした。なんとなく、東京人としてのプライドがあったのです。ビルや人に囲まれて生活するのが好きだったのです。彼の誘いを断ったのが私にとって正解だったのか、失敗だったのか未だにわかりません。くだらないプライドなど捨ててこっちにくれば良かったのでしょうか。案外来て生活してしまえば、寂しいのは最初だけで慣れてしまうものなのでしょうか。海沿いにポツリと建つポートタワーを見つけて、私はなんとなくこの場所が今更愛しく思えてしまいました。
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