喝采

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 予約したホテルは、ポートタワーの目の前にある安いビジネスホテル。前回神戸に行く時に彼に教えてもらったホテルでした。値段の割には場所もいいし、中も奇麗なホテルでした。前回も今回も、ポートタワーが窓の外から見えます。夜になると奇麗なのでしょうか。前回は部屋に着いた時にはもう明かりが消えていました。タバコに火をつけながらまた何となくポートタワーを眺めていると、公園のベンチで同じ様にポートタワーを眺めている人が居ました。その人はずっとタワーを眺めていたかと思うとベンチから立ってみたり、タバコに火をつけたり、その場をウロウロしたりしています。時折、このホテルを見てはため息をついてまたベンチに座るのです。まるで長い間、誰かを、待っているかのようでした。最初は気にも留めてなかったのですが窓の外を見るたびにその人がまだ居るのでだんだん外の風景よりもその人を眺める様になってしまいました。なんとなくその仕草をみて懐かしく感じたのです。  結構な時間、その人を眺めていたでしょうか。いったい何を待っているのか少し知りたくなりました。お通夜までまだ大分時間があるので、私もあの公園に行ってみようと思いました。別に声をかけたりするつもりもありませんでしたが、どんな人なのか、どうして懐かしい感じがするのか気になったのです。  エレベーターで地上に降りるまで、なんだか私はドキドキしていました。まるであの人と待ち合わせているかの様な感覚でした。凄く不思議です。なんで上から見ていただけの人にドキドキするのでしょうか?ホテルに着いてから開けたビールが回ってきたのでしょうか?一階に着き、だんだんと公園に近づくにつれてドキドキは収まりませんでした。そして公園が近づくにつれ、その人の姿が何となくはっきりしてきた時に私のドキドキの理由がわかりました。茶色い髪に、でっぱったのど仏。深緑のシンプルなカーゴパンツに、皮で出来たウォレットチェーン。履き古したスニーカーにシンプルなVネックのシャツ。まぎれも無く、私の知っている人でした。私は今日、まぎれも無くこの人の為に神戸まで来ているのです。この人の為に会社を休んでいるのです。この人のお通夜とお葬式の為に。そう、まぎれも無く修君がそこで何かを待っていました。  
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