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『可愛いね、桧山さん。僕のこと、好き?』
「やだ……も、やだ……」
濡れていた頬に生暖かい液体が流れる。怖い……、柴さんも、妊娠も。もうどうしていいか分からなくて涙が溢れる。泣いたってどうにもならないのに。
「このボケがっ!」
「きゃっ……」
視界が急に暗くなる。額に固いものがぶつかり目をつむる。背中に濡れた服がピタリと付いて何かが当たっている。
「い……痛い」
「泣くんじゃねーよ!」
耳元で鎌谷さんの声が聞こえた。二の腕や背中が痛くなる。恐る恐る目を開ける。目の前には鎌谷さんのTシャツ。鎌谷さんの匂いがした。
「あ……」
私は鎌谷さんに抱きしめられていた。
「か、鎌谷さ……」
「泣いてたら放っておけねーじゃんかよ」
鎌谷さんは更に私を抱きしめる。押さえられて息も苦しくなる、当たる二の腕も痛くなる。
「鎌谷さ……か……うわああっ!」
私は声を上げて泣いた。
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