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「よろしくお願いします」
私は初対面の先輩を目の前に頭を下げた。
「いいよ、いいよ、そんなに固くならないでさあ」
そう言って私の肩をポンポンと叩く先輩。女の先輩だからチクチクネチネチいじめられたらどうしようと不安だったから、少しホッとした。
1週間の新入社員研修のあと配属されたのは営業部。出勤して営業部の前でウロウロしてると女性に声を掛けられた。年上なのはすぐに分かった、と言ったら失礼だけど……。
『えっと、“桧山七海”さん……? あ、はいはい、入った入った! カード翳して、こう。ピーってピー!』
初対面なのに笑顔で気さくに話し掛けられて逆に驚いたし、営業ってこういう人じゃないと務まらないかなあって。
『はい、ピーした?、ピー!』
『え……あ、はい』
ドア脇にあるセンサーにカードを翳した。
『ピー鳴ったらドアノブを押して、っと。がちゃんキュー』
やたらと擬音語が多い30代の女性が私についてくれる先輩だと知ったのはその後の朝会だった。一度だけ面識のある部長に手招きされ、皆の前に立たされた。自己紹介して頭を下げると部長は“長谷川よろしく頼む”と言って私の背中を叩いた。皆が彼女を見たから彼女が長谷川さんなのはすぐに理解した。
『よろしく桧山さん』
長谷川さんはにっこり笑った。私は慌てて頭を下げたという訳だった。
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