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 出勤する。歩道の先に鎌谷さんの後ろ姿を見つける。エントランスに入り鎌谷さんが先にエレベーターに乗り込む。鎌谷さんは私の方を見ることは無かった。私も後続のエレベーターに乗る。オフィスのある階に着いても鎌谷さんが待ち構えていることは無かった。  同じ会社だけど違う部署で良かった。私は外回りで日の半分は社外にいるし、給湯室に行かなければ会うことも無い。せめてもの救いだった。仕事は辞められないけど顔を見ないようにすることは出来る。引っ越して鎌谷さんの自宅から離れれば、出退勤時に見ることも無くなる。そしたら直ぐに忘れられる。  卓上カレンダーに目をやる。あとは今週中に生理が来ればいい。 「……」  面倒臭い生理も待ち遠しいなんて初めてかもしれない。学生時代の彼とは勿論避妊もしてて漠然と大丈夫っていう安心感もあったし、仮に妊娠したら絶対に産むって決めてた。好きな人の赤ちゃんなら欲しいと思った。  ふと柴さんを見た。 「……」  ということは私は柴さんとの赤ちゃんを望んではいないのかもしれない。ううん、まだ付き合い始めたばかりだからだ。これから欲しいって思えるようになる、きっと……。 .
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