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何処をどう帰って来たかは覚えていない。気付いたら自宅の最寄り駅だった。
『抵抗したら分かるよね?、署名も判も欲しいでしょ?、傷物って噂が回ったら誰もお嫁にもらってくれないしね』
『……』
柴さんは寝室に行く時間も惜しいのか、そのままソファで私を抱いた。私は抵抗しなかった。もう抗っても無駄な気がした。涙すら出なかった。
「……」
夕刻。小雨が降り出した。私は傘も差さずに歩道を歩いた。どうしよう……お腹には赤ちゃんがいるかもしれない。あの夜は産むつもりでいた、柴さんと未来を歩こうと思った。でも柴さんは私が想像するような人じゃなかった、デキたら堕ろせばいいなんて。簡単にそんなことを言うなんて許せない。
「……」
あんな人との間に出来た赤ちゃん……。
「や……」
あの人との赤ちゃんなんて産みたくない。このお腹にいることすら認めたくない。
「……」
鎌谷さんに私を選んでもらえなくて、柴さんとのデートを黙認されてショックだった。もういい、柴さんと将来を歩いて行こうって決めた癖に。
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