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私は公園にいた。ただ足が勝手に動いてここまで歩いてきてしまった。
「……」
鎌谷さんを探してどうするつもりだろう。もう別れたのに、もう他の男の人に抱かれてしまったのに。濡れたベンチに座る。傘を差して犬を散歩させる人も何人かいた。
「あ……」
ジョギングする男性がいた。鎌谷さんだ。走って来た。
「おう」
「こんにちは……」
「お前滴っても本当に色気ねーな」
「……」
鎌谷さんが来てくれた。それだけで胸に込み上げる、放っとかれて当然なのに鎌谷さんが……。
「柴と喧嘩したのか?」
「……」
「部長に叱られたか? 営業部長はキレると怖いらしいな」
「……」
私は俯いて地面を見ていた。鎌谷さんには甘えられない、話す訳にはいかない。何を話せばいいか分からなかった。黙っている私に鎌谷さんは、営業部長にキレられたんならピーコも認められたか呆れられたかだな、と言う。
「ほら、行くぞ」
「……」
私は顔を上げられなかった。
「風邪引くだろ」
「……」
来てくれてこうして声を掛けてもらえただけで十分だった。俯いていた視界に鎌谷さんの手が見えた。
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