●37●

3/5
前へ
/398ページ
次へ
 着替えてキッチンに行く。麦茶を注ぐ。鎌谷さんはクッションに座っていた。上半身は裸でバスタオルを肩に掛けて、着ていたシャツを手に持っている。 「シャツ、乾燥機に掛けますか?」 「ああ。頼むわ」 「……」  鎌谷さんのTシャツを預かり、洗面所で軽く洗ってから乾燥機に入れた。 「何があったんだ? 柴か?」 「はい……」 「喧嘩したのか」 「……」 「喧嘩ってレベルじゃないな」  部屋にいる鎌谷さんに話し掛けられた。首筋のキスマークを見られたから今更かもしれない。でも自分の口から、しました、なんて言いたくなかった。小雨だった筈の天気は本降りになったのか、窓から入る雨音が耳に付く。しばらく黙っていたけど、いつまでもそうしている訳にはいかない。私は乾燥機のスイッチを押して部屋に戻り、鎌谷さんの前に座る。顔を見れなくて俯いたまま言った。 「妊娠したかもしれなくて……」  鎌谷さんの麦茶を啜る音がした。 「で、柴は何て言ってるんだ?」 「責任は取る、って」 「結婚するのか……」  私はちらりと鎌谷を見た。鎌谷さんは私から目を逸らした。 「そ、それが」 「何だ」 「同意書にサイン捺印するからって……」 「って、はああ??」 .
/398ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3058人が本棚に入れています
本棚に追加