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「出来ない……」
尊敬の破片も持てない人の赤ちゃんだとしても赤ちゃんに変わりはない。殺すなんて出来ない。なら産むしかない、鎌谷さんが言うように死に物狂いで育てるしかない。
「柴さんに……」
柴さんにまず自分の気持ちを伝えなくちゃいけない。もし妊娠してたら産むって。結婚とか認知とかはその後だ。今日はもう疲れたし明日にでもまた柴さんに会いに行こう、大切な話だから電話では済ませたくない。
でも……。一抹の疑問が浮かかんだ。鎌谷さんは命を大切にしろと言う癖に長谷川さんにはサインをした。私には柴さんと相談しろと言う癖に長谷川さんには父親であるスマ乳副社長に内緒で判を押した。何故……。
私は翌日、再び柴さんちに向かった。ドアを開錠してもらうのにエントランスから柴さんの携帯に電話をした。中に入り、エレベーターに乗る。
「……?」
柴さんの部屋がある階に着きエレベーターのドアが開くと、見覚えのあるスーツ姿の男性が立っていた。思い出せない。私は軽く会釈をしてエレベーターを降りるとその男性は乗り込んで下階に行ったようだった。
「こんにちは」
「あ、ああ。上がって」
「はい……」
中に入りソファに座る。革のシートは生暖かかった。来客でもあったみたいだ。柴さんは既に落とされていたサーバーからコーヒーを注ぎ、テーブルに置く。テーブルにあったファイルを柴さんは束ねて持ち上げ、棚に置いた。
「お客さんいらしてたんですか?」
「ああ。でも気にしないで。で、連日どうしたの?」
「あの、私……」
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