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私は用を済ませてリビングに戻った。柴さんは洗面所で手を洗っていた。
「生理来たみたいだね」
「すみません……」
ホッとしつつも騒いだ自分が恥ずかしくなった。ソファに掛ける。足元には書類が落ちていた。拾い上げる。
「……?」
見たこともない書類、タイトルに今期経営戦略と掲げられ、右肩に社外秘の文字がある。通信販売会社の予定買収金額、大手デパートのプライベートブランドへの参入計画。コピーと言えどこんな重要書類、何故柴さんが……。
「あ、それは」
「柴さん?」
「仕事の参考にね。ちょっと拝借したんだ」
柴さんは洗面所から戻ると私の手から書類を奪い取り、それをさっき棚に置いたファイルに挟んだ。来客があったテーブルに置いていたその客と書類を見ていた、ということになる。
「あの……柴さん」
「何」
「言いにくいんですけど私、今回のことで柴さんとは付き合えないって思いました。赤ちゃんのこととか避妊のこととか」
「それで?」
「それで、って……」
柴さんは再び私の隣に掛けた。
「僕は桧山さんが気に入ってるよ。桧山さんを手放すつもりはないから」
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