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性行為って何だろう、妊娠って何だろう、結婚って……。どれも安易にするものじゃない、本当に好きな人と本当に信頼し合える関係を築いてするものだと痛感した。
「……」
思い浮かぶのは鎌谷さんの顔。本当は鎌谷さんとしたかった。行為も結婚も妊娠も。鎌谷さんは私と結婚は望んでいたとは思う。でもそれは世間体というか親の体面を気にしてのことだと推測して私は鎌谷さんを諦めた。母親が勧めるから、近所に住む知り合いだから……手頃な人間として私を選んだ。事務的な結婚。そんな体裁だけの関係なら別れた方がいいと思った。
でも今思えばそれでも良かった。鎌谷さんが私を欲していなくても、そばにいれるなら形式だけでも良かった……。
鞄の中の携帯が震えた。取り出して画面を見る。鎌谷さんからの着信だった。
「もしもし」
「どうかしたか?」
「あの、今電車の中で」
「ん。じゃ」
あっさりと通話は切れた。呆れてるようにも取れる切り方、私はため息をついた。仕方が無い、相談する相手じゃないって分かってはいる。失礼きわまりないのも……。他の男の赤ちゃんを身篭ってると相談したんだから。
駅に着き電車を降りる。鎌谷さんに再び電話をした。鎌谷さんは電話に出ると、カフェにいるから来い、とただけ言った。私は重い足取りでカフェに向かう。
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