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大人は狡いと思う。言葉巧みに交渉するというか、固定先でライバル営業マンが私の顧客にうまく擦り寄る。お互い様だから仕方は無いけど、狡い。
「……」
鎌谷さんはどうしたいんだろう……。私を怒ってない、私の幸せを考えてる、と言い放ち距離を置く。ドラマに有りがちな狡い男の別れ台詞みたいだ、俺は君に不釣り合いだ、もっと素敵な男を見付けなよ、って。
「暑い……」
あれから梅雨は開けて猛暑日が続く。百貨店担当の同僚を手伝いに裏口に来た。中はヒンヤリして背筋がゾクリとした。私はどうしたいんだろう……許してくれるなら鎌谷さんに戻りたい。でもそんなの虫がよすぎるし、鎌谷さんは許すと言いながら許してない気がした。私を受け入れてはくれないっ、て。
売れ筋商品の段ボールを抱え売場に出ると、そこにはスマ乳のスタジャンを着た人が数人いた。
「あ……」
ヒョロリとした長身……スマ乳の副社長がいた。副社長は私を見付けてこっちにやって来た。ご無沙汰しています、お元気でしたか、と相変わらず優しく接してくれた。私も無精を詫びた。あのとき自宅を訪問して以来、それっきりだったから。
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