過去の人3

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優は三十代で少し体を悪くしてブランクがあり、転職していた。もともと不器用なこともあって、あまり納得いく職ではないらしい。私には彼にぴったりの仕事のように思えたが、彼は収入が少ないことを気にしていた。 デートの時は私に財布を出させないが、それは男のプライドであり、楽しみでもあったようだ。年収は300万円代。家庭を持つ程の甲斐性はないと自分で決めつけていた。 他人と家族になる、それは素敵なことだが、お金がなければ不幸になる。優しさだけで満足してもらえるのは他人だからで、一緒に暮らせば自分も常に優しくいることはできないし、生活がかかると相手だって不満が出る。妻に「こんな人だと思わなかった」「私が夢見ていた生活はこんなじゃない」と言われるのが目に見える。そこまで想像して結婚はするつもりがないという。 だからこそ、つかの間のデートでは、自分ができる限りのことをしてあげたい。それが幸せなのだそうだ。
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