サプリメント NO.0

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学長が倒れた。 聖ゴスペル魔術学院の教職員は、その事で少しばかり混乱気味になっていた。 学長が倒れた事はまだ生徒には伏せてあることだが、いつまでもそうしてはいられないだろう。何かしらの理由を付けて、学長が不在であることを伝えなければならない。 「あの傷は誰かに襲撃されたものでしたね……」 職員室で、教頭はぽつりとそう呟いた。 学長は別に病気で倒れたわけではない。誰かに襲撃されて倒れたのだ。それを第一に発見した教頭だからわかることである。 学長は腹部の半分を削られて倒れていた。何もせずにそんな傷はできやしない。どう考えても誰かによる人為的な傷である。 「にしても誰が……」 生徒にはまず無理だ。 学長は世界でもトップクラスの魔術師で、レベルは羅馬(ローマ)教皇と並ぶとされている。つまりは強いのだ。どう考えても生徒には敵いっこない。例外である水瀬凪瑳(みなせなぎさ)には取り調べを行ったがアリバイはあった。なのでおそらくは白である。それにそもそも動機がなかった。 学長が襲撃されたのは『ジェネラルイレクション』があった日である。つまり、多くの人間が学院を出入りしており犯人の特定が難しいのだ。 「教頭。どうするんですか? さすがに、生徒には学長が襲撃されたなんて言えないでしょ」 教師の一人がそう言った。 「まあ、そこん所は病気かなんかにしとけばいいと思うのだが」 「のだが……?」 「問題は犯人は誰か、だよな」 「もし、今急激に増えている反魔術派の仕業だと厄介ですよ」 「そうだよな。おそらくは、いずれ反魔術派の意見が一〇〇%正しいとされる時代がくるからなあ。学長襲撃も善行化されるだろう」 今、ニホンの政治は魔術を反対する動きにある。魔術を廃絶し、科学による至上主義を提示している。 つまり、 魔術は今、衰退の危機にあるのだ。 魔術師という存在を否定し、普通と称される一般的な科学技術を全面に押し出し、当たり前にする。 科学の範疇で不可能な事は魔術の範疇で可能な時代が終わりつつあるのだ。 科学の範疇で不可能ならばそれは絶対に不可能な時代が訪れつつある。 そうなってしまえば、 「終わりだな。このままじゃ、本当に俺たちはバケモノとして抹消される」 「でも教頭。生徒たちに不安を煽るような発言は出来ませんよ」 「でも感づいてはいるんじゃないか?」 「確かにそうですけど、それでも……」
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