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大臣のユウウツ
童話大臣が赤い絨毯の上で恭(うやうや)しく片膝をついた。恰幅の良かった昔の姿など見る影もなく痩せきってしまった身体を礼儀にならって折り曲げると、もともと猫が座った程しかない身長がさらに半分低くなる。
そんな彼に、神々しくも一声聞くだけでぴりりと背筋が伸びる荘厳な声がかけれた。
「苦しゅうない、顔を上げよ大臣」
その言葉をありがたく頂いて表を上げた。既定の距離を守っての謁見が厳守なので、そのお顔をうかがい知るために大臣はじっと目を凝らして王座を見つめた。
「ふむ。たしかに、この世界の存亡に関わるゆゆしき事態じゃ」
このフェアリーテイルにいくつもあるおとぎの国を全て総べている目の前の童話王は、ことの重大さを理解して口元も隠れるたっぷりと豊富な自慢の白髭を撫でつつ頷いた。
「童話の依頼はもはや貴重じゃ。一つの依頼も断るわけにはいかぬな」
「はい。そして今回あちらから依頼されたのは『シンデレラ』でございます」
「人気作じゃ。これ一冊でどれほどの夢や希望がこの世界に集まってくることか」
「ですが」
「その物語に必要な、『シンデレラ』と『王子』がいつまで経っても来ないと言うのじゃな」
大臣は疲労の濃い顔色で頷いた。彼をそうさせている悩みがまさにそれだったのだ。
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