召喚!

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召喚!

  …ラーメンを、食べていたと記憶している。 学校帰りだった。実際首から下は暑苦しいブレザーだったし、手には底の深い椀と割り箸を持っていて。 じゃあ何が不思議かって、清潔感をギリギリ欠いた老舗ラーメン屋が一瞬で大理石の床を敷き詰めてその面積を広げ、メニュー表も剥がれ経年劣化した壁が突如見事なアーチ状の高い天井を作り出し、贅沢な装飾を纏って必要以上にその身を光らせるシャンデリアなんてものをぶら下げてしまったことだ。 「おお、これはなんと容姿端麗な!」 「まさに王子がふさわしい殿方ね」 「少々若すぎる気もしますが」 状況を飲み込もうとして、口の中の麺を飲み込んでしまう。椀と箸を持ったまま今は椅子をなくして地面に尻をつけている自分は、なぜだか現在、数十人の大人に取り囲まれていた。 これはどこぞの仮装会とでも思えばいいのか、下にコルセットでもありそうなドレスやらカボチャパンツやらと、この場の連中はなんとも服装が奇抜だ。 ここはなんだ、高級ホテルか? さっきまでラーメンを食していたことは確かなのだがここに至ったまでの経緯がさっぱり頭にない。間違いないのは、絶対にさっきまでいたラーメン屋ではないということだ。 あの、ハエが一匹飛んでいるくらいが男心をくすぐるたまらない魅力だというのに、こんな汚れの一つも許されないような場所ではハエも息が詰まって窒息死だ。   とりあえず椀と箸を持つことに疲れたので、地べたにごとりとそれを置いて。 「…どこだよここ」 若井 皇子(ワカイ オウジ)はため息交じりに額へ手をやり、誰でもこの状況になれば当然思うだろうその言葉を呟いたのだった。
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