不機嫌な王子さま

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「しかしシンデレラと王子は家出してしまい…国王様は最後の手段と、召喚の魔法を許可なされました。王子役とシンデレラ役を現実世界から呼んだのです。そうしてあなたが現れ…あの、聞いてらっしゃいます?」 後ろ首を摘ままれた猫よろしくぶら下げられてなお世迷い言をのたまう男に、ちょっと殺意を覚えかけてしまい、落ち着け自分と気晴らしになりそうなものをあたりに探して、青い空に緑の対比が見事な庭園を縁取る大窓を見つけたので、ああいい景色だなと死んだ魚のような目で見ていたら、とうの大臣におずおずながらも少々むっとされる。 殺ってやろうかと思った。 「…どういうマジックを使ったか知らねーけど、もういいからさっさとさっきのラーメン屋に帰してくんねぇ? 金払ってねぇし」 「あ、それはだめです、無理です」 「……んのオッサンは…」 こっちはこれ以上話を聞いているとおかしなことをしてしまいそうで折れてやったというのに、もとからない忍耐力をばっさり切り捨てた大臣の一言が「よし、殺ろう」と皇子を決意させた。 再び掴みあげられた大臣はひえぇっと裏返った頼りない悲鳴をあげる。 「こ、こればかりはどうにもなりません! 一度召喚されたら役目を終えるまでがこの魔法なんです、あなたが現実世界に帰るためには王子役をまっとうするしかないのですっ…!」 …やべこいつもうめんどくさい。 だいぶ前から半分だった目が今やピクピクと引きつりはじめている皇子だ。 同じ日本語なのにこいつとの会話がまるで噛み合わない。いや、ここに居る大人たちのおそらく全員、シビアな現実に精神を病んで現実逃避した人間の集まりなのだと解釈される。そう言う人間に話し合いは無駄、というよりもう無謀だ。つつけばちょっとアレな言動しか飛び出してこない。 どうやら今生産性が見込めるのは、言葉や力ずくでの話し合いよりも不本意ながら騙されてやったふりをして、彼らの望みどおりママゴトに付き合ってやることらしい。
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