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「…。言うとおりにすれば文句はねぇんだな?」
「も、もちろんです!必ず帰れることも約束します」
初めて肯定的な台詞を口にした皇子に、大臣がこくこくと首をうなずける。
(チッ…シンデレラの王子だと)
あれか、煌びやかな衣装にかっちりと身を固め、髪を後ろに流して清潔感を演出し、白い歯をきらりと光らせて笑う、これから俺があれをしなければいけないのか。想像しただけで背筋に悪寒が走ってできれば壁に寄りかかってしまいたい衝動をため息で逃がしつつ、大臣から手を放した。
「で、いったい何をすりゃいいんだよ」
「あっありがとうございます王子!ではさっそく…」
と言いかけたところに、大臣のもとへなにやら遣いらしき男が小走りにやってきて、焦った様子で大臣に耳うちを始める。大臣の表情がみるみる暗雲に陰った。
「なんと…やっと王子がその気になってくださったところなのに」
「…なんだよ、どうした」
大臣の様子に、いぶかしんで皇子が問うと。
「あなたと同じように、この世界に召喚されたシンデレラなんですが…」
「へぇ…俺以外にも騙されてる奴がいんのか」
「は?」
「いいやなんも。で?」
「先ほど説明しました通り、召喚された者は役目を終えないと帰れないのですが…そのシンデレラが、帰りたくないから物語は終わらせない、と申されているようで…」
「…はぁ?」
「えぇつまりその…シンデレラ役は引き受けるが、王子と結婚はしない…とか…」
「…」
…頼むからどこかにまともな人間はいないのか?
うんざりして、皇子はついに額へ手をやってうなだれたのだった。
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