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おとぎの世界について呆気に取られるくらい話を信じてくれたことは都合がいいので良しとしても、ではいざシンデレラのストーリーに沿って話を進めようとしたときのことだ。
「さぁシンデレラ!はやく私の部屋を掃除でもしてちょうだ……きゃあ!?」
のほほんとソファに座るシンデレラの腕を強引に掴んで立たせようとした義姉の一人は悲鳴を上げる。
掴みかかった腕を、逆に取られて背中へ回されたのだ。
「いい痛い!痛いわっ」
「あ、いけない!ごめんなさいお姉様、ついクセが」
いったいどう育ったらそんなクセがつくのだ、と訊き返したい欲求を恐怖心が勝り、パッと腕を解放された義姉はあわあわとシンデレラから距離を取った。
「お怪我はありませんか?」
どうやら本当に無意識だったようで、少女が申し訳なさそうに顔をゆがめて尋ねるものだから、義姉は気を取り直す努力をして軋む腕をさすりながらもなんとか自分の役目をまっとうしようとする。
「も、もういいわ…早く掃除をしてちょうだい」
「はい、喜んで!」
いや、喜ばれては困るのだけれど…と義姉が言うより早く、シンデレラは喜び勇んで屋敷を物色し、見つけ出した物置からモップとバケツを引っ張り出してきた。
水晶ほどに大きなその瞳はもはやダイヤモンドくらい眩しく輝いている…本当にこの子で大丈夫なのかと義姉と義母が目を見交わして不安になってしまうほど、少女はこの状況を完全に楽しんでいた。
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