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プロローグ
この世界の空は空気を読むことがたいそう上手い。
とあるお城でお姫様が何を思ったのかその細やかな指先を糸車に刺してうっかり永遠の眠りにつけば、これはいかんと窓の外に不穏な雷雨をもたらして不安感を煽ったり、
とある美しい姫が王子様のキスで目を覚ますと見ればここだとばかりにまばゆい陽差しを彼らの頭上に降り注がせて、ハッピーエンドを得意げに演出した。
今はとくに役目がないようで青空に落ち着いているのだが、人の夢と理想でできたこの世界では空も人が想像できる限りを極めた青に染まるので、ぬかりはない。
そのただ中に翼を広げている、汚れとも菌とも遠く無縁な鳩が数羽、耳に心地よい歌声を響かせていた。
クルックーと鳴いている、と言いたいのではなく、本当に合唱しながら。
〝フェアリーテイル、おとぎの世界♪ フェアリーテイル、この世界♪ 〟
自分の声に酔いしれるようにうっとり目を閉じながら、空を飛んでいるはずなのに器用に身振り手振りで振り付けをこなす彼らに、なぜ墜落しないのかなんて夢のない疑問は禁物。
その光景をあり得ないと思う方がここではあり得ない。動物は歌い、木には顔面があり、絨毯は飛んでリンゴは毒。
そんなあり得ないことなどないこの世界『フェアリーテイル』にて。
どうやらそのあり得ない事態は、起きてしまったようだ。
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