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――…だれ……?
呼ばれた気がして、彼女は振り向いた。
辺りは夕闇。
人気の無い公園横の細い路地には、彼女以外の人影は見えない。
切れかけた外灯の頼りない光が、夕暮れに染まる路地の隅に、ぼんやりとした影を浮かび上がらせている。
(……気のせい…?)
小さく首を傾げ、彼女は再び彼女以外無人の通りを歩み出す。
――と…
『 ――… アリス ……… 』
「―――!?」
振り向く。
今度は確かに聞こえた。
まるで耳元に直接吹き込まれたと感じる程に近く、鮮明な《聲(コエ)》で。
『 ――… アリス …… 』
「…あ り……?…え、なに…??誰の事………?」
家へと続く道に背を向けた彼女が、震える声を投げ掛ける先に影は無い。
“誰もいない”。
なのに声だけが主張する。
深く、刻み付けるかのように強く確かに、“己”の存在を彼女に知らせる。
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