第二話

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次の日の放課後、悠月はまた丈の教室の前に居た。 二人は当たり前のように並んで下駄箱を目指す。 周りに居た生徒たちは小声になる、 不思議な組み合わせだと。 丈も悠月も目立つので知らない人間は少ないが、それでもその二人に接点があるなど誰も考えられなかった。 聞き耳を立てようが、あまりにも会話が少ない。 お陰で余計に謎ばかりが膨らむのであった。 特にしっかりした約束も無く、悠月は待っていた。 それを丈は「了解」ととっただけであった。 悠月の、瞳で語る技を羨ましく思う。 校門を出て暫くは生徒で溢れかえる枯れた並木道を歩くと、ある角を曲がってからは急に通行人の数も種類も変わる。 多くは駅へと向かい、ごく少数が近くの住宅街へと向かった。 その住宅街の中でも一際目立つマンションがあった。 道路を挟んで小さなコンビニと薬局がある。 平然と高校生がその建物へと入っていくのは少し違和感があった。 「…お前、金持ちなんだな…」 「…さぁ…」 「いや、だって、こんなオートロックのマンションに独り暮らししてんだろ?」 「まぁ、そうだけど…」 エレベーターが止まったのは、建物の真ん中辺り。 当たり前のように廊下を突き進み奥のほうの扉の前で止まると、大男にしては小さな鍵で部屋に入った。 先に入った丈が明かりを点けるが、振り返るとまだ悠月は玄関先でぼんやりとしていた。 ほんの少し足を踏み入れたところでまた少しだけ停止して、何かを確信したかのようにそれからはいそいそと靴を脱いだ。 陽気な声で「おっじゃましまーす」と今度は丈を押しのけてリビングへと進む。 目に映る全てのものに悠月は一通り叫んだ。 3LDKと風呂とトイレ、ベッドはダブルで、寝室には音楽を作るための機材やPC機器が異様な空間を作っていた。 しかし全体を通して決して散らかっているわけではない。 男子学生の独り暮らしにしては几帳面すぎる位に片付いていた。 所々に観葉植物が置いてあったり、絵が飾られてあったりする。 何よりまったく男臭さが無かった。 仄かに香るものはあったが、決して気分を害する類のものではない。 きっと香水の類いのものだ。
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