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次の日の放課後、悠月はまた丈の教室の前に居た。
二人は当たり前のように並んで下駄箱を目指す。
周りに居た生徒たちは小声になる、
不思議な組み合わせだと。
丈も悠月も目立つので知らない人間は少ないが、それでもその二人に接点があるなど誰も考えられなかった。
聞き耳を立てようが、あまりにも会話が少ない。
お陰で余計に謎ばかりが膨らむのであった。
特にしっかりした約束も無く、悠月は待っていた。
それを丈は「了解」ととっただけであった。
悠月の、瞳で語る技を羨ましく思う。
校門を出て暫くは生徒で溢れかえる枯れた並木道を歩くと、ある角を曲がってからは急に通行人の数も種類も変わる。
多くは駅へと向かい、ごく少数が近くの住宅街へと向かった。
その住宅街の中でも一際目立つマンションがあった。
道路を挟んで小さなコンビニと薬局がある。
平然と高校生がその建物へと入っていくのは少し違和感があった。
「…お前、金持ちなんだな…」
「…さぁ…」
「いや、だって、こんなオートロックのマンションに独り暮らししてんだろ?」
「まぁ、そうだけど…」
エレベーターが止まったのは、建物の真ん中辺り。
当たり前のように廊下を突き進み奥のほうの扉の前で止まると、大男にしては小さな鍵で部屋に入った。
先に入った丈が明かりを点けるが、振り返るとまだ悠月は玄関先でぼんやりとしていた。
ほんの少し足を踏み入れたところでまた少しだけ停止して、何かを確信したかのようにそれからはいそいそと靴を脱いだ。
陽気な声で「おっじゃましまーす」と今度は丈を押しのけてリビングへと進む。
目に映る全てのものに悠月は一通り叫んだ。
3LDKと風呂とトイレ、ベッドはダブルで、寝室には音楽を作るための機材やPC機器が異様な空間を作っていた。
しかし全体を通して決して散らかっているわけではない。
男子学生の独り暮らしにしては几帳面すぎる位に片付いていた。
所々に観葉植物が置いてあったり、絵が飾られてあったりする。
何よりまったく男臭さが無かった。
仄かに香るものはあったが、決して気分を害する類のものではない。
きっと香水の類いのものだ。
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