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「悠月、」
「あぁ?」
「大学入ったら、ペア組まねぇか?俺たちは音楽科だから、単品より何人かグループになってる方がコンクールにも出やすいらしいし。」
「あぁ…らしいよね、そうだな…」
「俺ならお前の声を最大限まで引き出せると、思う。」
「…そう…」
突然言い出された悠月にも増して、丈は驚いていた。
積極性や協調性のカケラも無かった自分が、出会って二日の男を人生への挑戦に道連れにしようとしている。
こだわっている理由も、引き寄せられる理由も、ハッキリと彼の中にはまだ現れてはいなかった。
悠月はうつむいて眉間にまた皺を寄せていた。
それが丈には少し解せなかった。
何故曲を自ら唄ってくれていたのに、申し出には曖昧な態度しかとれないのだ、と。
そして悠月の表情は、ファーストフード店でふと肩に手を置いた瞬間や、部屋に一歩踏み入れるまでに見せた苦悶に似ていた。
単に嫌な場面、という具合ではなく、それら全てはどこか一つの鎖で繋がれている気がするのだった。
理性と好奇心が必死で戦っている。するとふと、悠月がぱっと目を見開いた。
「丈、お前彼女居ンの?」
悠月の目線の先を丁度丈の左手が奪った。
薬指に指輪がはめ込まれている。
「…まぁ、一応。」
照れる様子は一切無く、むしろ俯くように呟き返した。
「あ、…何、聞いちゃまずい雰囲気?」
「いや別に、…最高潮とも言えないけどな。」
思考は数日前に遡る。
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