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一見で悟られないように隠しているが、丈もこの状況を楽しんでいた。
この家に客人が来ること自体、初めてかもしれない。
普段は安らぐために人と付き合わないようにしていたが、人といて落ち着いた気分でいる。
何でも見透かしたように大人ぶっていたが自分が、声を荒げたり、今度は痙攣寸前まで笑い転げている。
そうさせたのは、悠月に他ならない。
不思議な男だ。
悠月は単純に構成されているようで、全く掴めない。
また、悠月の顔は整っていて女性的だが、物腰は一切ひ弱い感じはしない、むしろ芯が通って男らしいとも言える。
息を整えつつある悠月の頭を鷲掴みにしてみる。
一瞬小さな身体が飛び跳ねた。
これは実験だった、
2回程見た解せない動揺の謎を解きたかった。
動きを封じれば力一杯抵抗するだろうか。
しかし期待は外れた。
悠月は静かに、諦めたようにソファに無言で収まり続けたのだった。
更にそのまま「…今何時?」と丈に問うた。
時刻を告げると、のんびりと重い掌をくぐり抜け立ち上がる。
窓の外はすっかり夜だった。
「あー…ごめん、帰らなくちゃ。」
言いながらコートを着込みだす。
玄関まで送り出すが、その廊下がいつもより短く思う。
別れを惜しんでいるのか、そんな自分が馬鹿らしくなるが、丈は確かに物寂しさを覚えていた。
今日も言いたい、明日会えるかを聞きたかった。
靴を履き終えて振り返った悠月は微笑むと、「んじゃ、お邪魔しました。」と首を少し右に傾けた。
男がするには気味が悪いおどけ方だが、悠月には可愛らしい演出に見える。
細い指がドアノブに添えられた、と同時に丈が悠月の左腕を引く。
そのままの勢いで頭を掴んで、丈は被さるように唇を塞いだ。
実験ではない、衝動だった。
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