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一つハッキリと言えるのは、丈は同性を愛したことはない。
おそらく今後もないと思っていた。
軽蔑はしていないが、本人にその自覚は全く無いのである。
最初、純粋に悠月のことを「美しい」とは思った。
しかしながらそれは恋愛感情抜きの話だ。
悠月を家に招きいれ、短い時間で沢山の悠月の表情を見た。
それらは例えようも無く魅力的で、
単純な物欲に似たものを掻き立てる。
勿論、彼の持つ声も、丈の欲するものの一つとなっている。
だが、表には見えぬ何かさえ悠月は持っているらしい。
時折見せる異様な動揺や、理由なく丈を安心させるその存在感。
余計に悠月が人間離れした何かに思える。
男を愛したことがないことも、大きな問題だった。
日本では未だ完全なマイノリティである。
そのため自分が男を愛しているかもしれない現実を受け入れにくくしている。
未だ玄関でのた打ち回る丈の腹の上を、オス猫がどすどす歩いていく。
鳩尾を圧迫され一瞬嘔吐しそうになるが、おかげで一旦の思考停止には成功した。
丈が欲しいのは、男である悠月ではなく、「沙田悠月」という人間である。
この結論は、揺らがなかった。これなら一切の余計な雑念も置いておける。
それが恋や愛で表すような感情なのかは、まだわからない。
それでも良かった。
起き上がると、左手を見た。
冷たいシルバーリングがあった。
まずやらなければいけないことを確認して、寝室へと戻る。
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