第三話

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「おい、悠月居るか?」 一瞬教室がざわついた。 3年D組に木河丈が現れたのは初めてだった。 この中には彼の声を初めて聞いた者も多く居ただろう。 声を掛けられた出入り口側の生徒は辺りを見回して、丈が見ているのが自分であることを確認した。 そして少し動揺しながらも「悠月ちゃん…今日は休みだよ、な?」とまたクラスメイトに助けを求め、力なく他の生徒達も、そうだと頷いた。 男子生徒が振り向くと不機嫌極まりない顔をした男が立っている。 丈の背格好と雰囲気は時にとてつもない威圧感を持っていた。 「ほ、ほら、悠月ちゃんは、今日は休みだってさ!」 「……そう、わかった。」 丈の不機嫌の理由は悠月の欠席よりも、クラスの大半が悠月のことを「ちゃん」付けで呼んでいることにあった。 せこいじゃないか。 あいつはお前らの何なのだ。 「我ながら早速末期だなぁ…」と自分の教室に戻りながら頭を抱え込む。 昨日は風邪を引いているようでもなかった。 それは彼の歌声が証明している筈だ。 そしてまた丈はため息をつく。 何か原因があるとするならば、 それは間違いなく、昨夜の自分がした浅はかな行為に違いない。 この日から、丈の手に指輪は無かった。 昨夜悠月が帰宅してすぐに彼女(であった女)に電話した。 理由を述べるのも面倒だったが、「別れたい」ということを通すと彼女も渋々だがそれでも承諾した。 気分は舞い上がる訳でもなく、ただ安心した。 これでしがらみも全く無い。
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