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ふと、悠月を見舞ってはどうか、と案を思いつく。
話では悠月の家は少し遠いが、電車を使えばすぐだ。
昨日の今日で顔を出しては機嫌を損ねてしまうかもしれないとも思ったが、それなら素直に謝りたかった。
そして隙あらば、自分の想いを少しでも伝えたいとも、丈は考えた。
住所は悠月の担任に問い詰めればすぐに分かった。
元々優秀な生徒だった丈に何の疑いも無く周辺地図のコピーまで渡してくれた教師は、「お前たち友達だったのかー」と嬉しそうに身体を叩く。
心の中で「友達で居たかったです、欲張りすぎる自分にほとほと呆れております。」と懺悔した。
放課後には人波に紛れ駅へ向かい、見知らぬ風景を電車から眺めた。
「なんとなく」で選んだ学校に通うため、悠月は毎日この風景を独り眺めているのかと思うと不思議だった。
特別珍しい訳でもない住宅地と都市ビルしか映らない、どちらかというとつまらない類だった。
目を閉じて、最初の一言は何にしようかと考える。
もしかしたら人生で一番可愛いことをしているかもしれない。
人の感情を気にして、人の心を掴みたいと考えるなんて、思ってもみなかった。
そう変えたのは、悠月だ。
出逢ってこれほど短期間で人の心を動かしてしまう彼が、恐ろしく感じる。
窓ガラスに映る自分の顔を確認するが、いつも通りの無愛想だった。
短所でもあるが、長所でもある。
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