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「……それだけですか?」
「うん。ま、君は『そうじゃない』って思ったから、質問したんだけどね。悠月は2階の奥の部屋に居るよ。」
どうせあいつ仮病だから、会っていく?と陽が階段を指さす。
丈は表情を崩さないよう気を付けながら、靴を脱いで玄関に上がった。
何故わざわざそんな質問をするのだ。
違和感だけが胸に残る。
それは断片的に漏れてきた、悠月の映像とわずかにリンクした。
「お兄さん。」
「はい?」
リビングに向かおうとしていた陽が振り向く。
「悠月は、他人とあまり関わらない人間なんですか?」
「うーん、…そうだなぁ、高校に入ってからは、まず無かったかな。」
「他人に触れられるのも、好きじゃないんですね。異常な反応をされたのですが」
「…そうだね、苦手にしていると思うよ。でも人とつるむのは好きなはずだから、仲よくしてやってね。」
丈は更に罪悪感を覚えた。
苦手なのにも関わらず、あれほど無邪気に自分に懐いてくれた彼を
一瞬で欲望のままに奪おうとしてしまった。
空しくて、悲しくて仕方がない。
だけどそんな脆い存在の悠月を、
絶対にもう手放したくはないという想いも強くなった。
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