第三話

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子供部屋は広く、ベッドが両端に一つずつ置いてあった。 右側の布団は膨らんでおり、髪の毛が覗いていた。 机が正面に二つ並べられており、あとは本棚がいくつかあった。それらには家族の写真が多く飾られてある。西日が反射してよく見えないので、近づこうとする。 「ハル兄?」 声がする方を振り返ると、悠月が丈の姿を見て止まっていた。 兄と間違えたらしいが、目の前に居たのはそれより二回りは大きな男だった。 必死で笑顔を作る悠月に胸が痛む。 昨日どんな表情で帰ったんだろうか、見なくともわかるのに。 丈はコートを部屋の隅に置き、枕元近くに進むと、そのまま床に座った。 顔の高さがほぼ同じになる。 どうして来たのか悠月は尋ねたが、それは聞き流した。 「悠月、」 「何?」 「ごめん、」 「えっ」 「…ごめん、色々。」 枕元に少し額を置き、項垂れる。 「嫌なら嫌って、言えよ。」 「何が。」 「触れられるの。まぁ…キスは普通嫌だろうけど。」 「…嫌っつーか、迷ったけど、…でも、丈は、…何かほら、違うだろ。普通じゃねーから。」 「…はぁ?」 「不思議だから、ちょっと興味があったんだよ。昨日は、びっくりしたけど。」 「…申し訳ない。」 「だから丈のことが嫌ってわけじゃ、ねーんだ。」 蒼い目が、やっと丈の瞳を捉えた。 まだ動揺の色がうかがえる。 「なぁ、丈って、…ゲイなの?」 悠月がじっと見つめながらつぶやいた。 思わず吹き出しそうになるが、なんとか堪える。 「いや違うけど……そうかもしれない。」 俯いたまま言うと、悠月はベッドの上に飛び起きた。
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