序章

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ユエは、美しかった。 青白い肌、白に近い金髪、深い海のように碧い瞳、 四肢は惨めな程か細くて、だが立ち振る舞いは実に堂々としている。 情に厚くて、強がりなのに、涙もろい。 華が咲いたように笑い、 身体から光を放っていた。 光は人々を魅了する。 私も、その人々の中の一人に過ぎない。 そしてユエは、唄った。 誰も聞いたことのない限りなく中性的な声で、 全身を使って、 泣き叫ぶように唄った。私にはそう、見えた。 どれだけ優しい歌も、ユエは切なそうに奏でた。 あるいは愛おしそうに、と表現すべきかもしれない。 ユエは、美しい人だった。 同時にユエは、ずっと独り、闇の中に居た。 これ程までに輝きながら、ユエは自ら闇を選んだ。 そうまるで、ユエは夜に浮かぶ「月」だった。 私たちを惹き付ける、遥かなる月、 希望であり、道標である。 いつでも傍に居てくれる。 ある時人は、私を「雲だ」と称した。 褒め言葉のつもりであったらしい、私も割と素直に受け止めた。 その言葉を恨むようになったのはすぐ後だった。 「なんだ、雲ならば、月を一時抱きしめたらすぐに流れなければいけないじゃないか。」 ユエはそんな時でも、困ったようにだが笑ってくれた。 「…丈は、青空を流れなきゃいけないんだよ。」 私は願った、華になりたいと。 ユエの光を一身に受け、眺めることのできる華になりたかった。 …結局運命は変わることはなかった。 繰り広げられる私の人生が掠めた、一瞬の夢物語である。 まだ今でも、あのあまりにも短すぎた期間が、 少し長い夢を見たかのように思える。 何故、わざわざこんな文章を残すかと疑問に思うだろう、 しかし、 きっと、忘れてはいけない想い出、 一生をかけてでも、この物語を語り継ぎたい、語り継いで欲しいと思った。 私が死んだなら、この本をまた誰か他の人へと伝えて欲しいとも。 願うのは一つ、 最後の恋人と、永遠の愛を。 木河 丈 KIKKA JOE』
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