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触れ合うことを除いては、悠月は本来、演技でもなく人懐っこい性格だった。
それは丈も驚くほどで、
道行く人が困っていれば率先して手を貸すし、
好奇心旺盛な彼は丈が睨めっこするパソコン画面を横で並んでじっと見つめては、クリック1つ毎に
「おい、ちょっと待てお前今何した?」
と丈のボサボサの頭を叩いた。
悠月は、外見は並大抵の女では太刀打ち出来ないほど端正であるのに関わらず、
女が持つしつこさやその類の醜く扱いづらい点がない、
さっぱりとしていて逆に男らしすぎる位の人間だった。
もしも恋人の契約がなければ、単純に友情も生まれたかもしれない。
だが丈が悠月に対し生み出した感情は、友情の域を超えてしまっていた。
それは完璧な「欲」にも匹敵する。
告白の結果としての現状だとすれば、これで良かったのだろう。
丈が欲しかったのは表面の造形美だけではない、「沙田悠月」そのものの存在を欲した。
興味と憧れは、彼を間近で見つめることが出来るようになった今も変わらず呻き続ける。
勿論悠月は丈に問うた。
「恋人同士になった意味あんのか?これ。」
「…さぁ…?…じゃあ、キスでもするか?」
「え、いやぁそういう訳じゃないんだけどな…」
言いたいことは判るよ、と肩を抱いてやると、細い身体が体重を預けてきて「…でもこれはこれで落ち着く。」と笑う。
確かにただの友人同士ではあまり出来ないことだ。
丈は多くを語らない、
話は専ら聞き手側で、それでもしっかりとした意見を持ち返答する。
それは悠月が、彼自身を解放するには丁度いい場所だった。
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