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終業式の舞台に、その生徒は現れた。
その姿を見てまず静かに驚いたのは丈だった。
健は栗色の髪の毛をふわふわさせ、その瞳は緑色をしていた。
自分の学年に悠月のような派手な生徒が居たことをつい最近まで知らなかったのに加え、
更にもう一人明らかな混血の生徒が居たことさえも知らなかったのだ。
あまりの注意力の無さに愕然とする。
壇上に上がった少年はあまりに小さく、細く、もしかすると悠月よりも更に小柄の可能性がある。
愛くるしい大きな目と少し上を向いた鼻と唇が、先日行われたらしい大会の結果を報告した。
陸上部に所属する彼は就職組で、他の生徒が引退後も大会などに参加していた。
そしてこの度学生の大会でなんと世界記録を叩き出したらしい。
これを聞いていた生徒が「つっても前の記録もあいつが立てたんだろ?」と、囁きあう。
卒業後は企業のスポーツチームに入ることも内定しているらしい。
「えーそれもこれも、皆さんのサポートのお陰です。」
健の若干高い声が、マイクに通る。
始終にこやかな彼は手短に挨拶を済ませ、ついでに今後の抱負も語ると舞台を去った。
式はこの瞬間を除いてはいつも通り、退屈極まりない。
だがこの後行われるらしい年内最後の服装点検のことを知らされた生徒達は一斉に騒ぎ出した。
期末テストからこの日まで随分と時間があった、
頭髪を遊ばせるには丁度良い期間だろう。
丈が体育館を出ると、先を歩いている悠月を見つけた。
彼の場合は地毛ということが認められているため、特に問題はないそうだ。
ちらりと目線を横にやると、早速数人の生徒が生活指導に捕まっていた。
中には髪の毛が見事な銀色になっている者も居る。
注意を受けた銀髪の男子生徒は「世界中の皆が俺を待ってるんですよー!!?」と大声で叫ぶ。
大真面目な青年を教師は分厚い出席簿で叩きつけようとしているが、その度に彼はひらりひらりと攻撃をかわした。
心の底から丈は彼を軽蔑し、同じくして悠月は「…凄い…」と苦笑していた。
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