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辺りは騒然となる。
丈は後ろに尻餅をついたが、腕には落ちてきた人をしっかりと抱きしめていた。
偶然にも、その人間は異常に細身で、長身で筋肉質な丈が下敷きになったことにより、奇跡は起こったらしい。
必死に息を落ち着かせようとする人物はまだ丈の上で俯いたままだった。
状況を把握しきれていないらしい。
丈は落ち着くまで待とう、どうせ時間もあるし、と人物の観察を始める。
明かりと言えば街灯とイルミネーション、それらに照らされたのは丈の上に倒れかかる人物の、毛糸の帽子から溢れる見事な金髪だった。
首筋も異常に白い。男とは実に単純なもので、痛む体の後ろ側半分なんてどうでもよくなった。
だがすぐさまその浮いた心は崩れる。
「…っあ、すすいません、大丈夫ですか?」
泣きそうな声だったが、掠れたそれは女性というよりむしろ男性、いや少年のものだった。
特別女好きでもないが残念な気持ちは本当で、丈は「…なんだ、男か。」と素直に言葉を口にした。
少年は一気に起き上り、怪訝そうに睨んだ。
眉間の皺と明らかに不機嫌な表情はさておき、少年はまた辺りが静まる程に、美しかった。
何かを言おうとしていたらしいが、丈は振り向くことはなく、今度こそ階段を昇り始めた。
見開いた瞳が、呼吸を忘れそうな程大きかった。顔立ちからすると、ハーフだろう。
脳内に色濃く焼き付いた少年の表情は、芸術品そのものだった。
時計を見ると、一連の騒動の間に針は待ち合わせの時刻に近付いていた。地上に出ると、遠くから歩いてくる見慣れた影を見つけることも出来た。
暇潰しにしてはいいものを見た。
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