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翌日の学校も、いつもと変わらず騒々しい限りであった。
受験を控えた人間が大多数を占めるとは到底考えられない、丈は忙しなく口を動かし続ける彼らを軽視していた。
クラスメート達にとっても丈は絡みづらい相手であったし、
お互いに干渉しあうこともあまりないまま、最後の冬を迎えていた。
何度席替えをしようとも、丈の居場所は指定された木河丈の席だけで、
休み時間となれば勉強をするなり読書をするなり、
眠い時ならば腕を組み静かに目を閉じた。
それで充分な日常だった。
勿論三年間の間に友人が一人もできなかった訳ではない。
興味本位で丈に近付いて、彼の独特な物腰を気に入った物好きも数人居た。
丈は年の割に大人びてその上博識であったために、頼られることもあった。
他人の会話は意思に反して頭の中にうるさく響く。
複数のグループが生み出す騒音は余計に丈を圧迫した。
教室の外も同じである。
廊下を走れるのは、もう今年いっぱいだろうよ、と冷ややかな視線を送る。
入れ替わり立ち替わり、教室の前後に二か所設けられた扉を人々が行き交う。
何の変哲もない高校生の日常風景だった。
運の悪いことに11月末に行われた席替えにより丈の席は一番前の列の一番扉側に移された。
よってすべてが目障り耳障りなモノとして認識される。
この日は音楽プレーヤーの充電を切らしてしまった。
必死で読書するも、また視界の上半分が誰かの制服により黒く染まる。
男子だ、誰かが目の前に立っている。
高校の制服はセーラー服と学ランなのだ。
「おーい、誰かリーディングのLesson10の訳教えてくんねー?」
教室が仄かにざわついた。そして丈は密かに目の前の男子を哀れんだ、
リーディングなんてもはや誰もまともに授業を受けてはいない。
三分の二が昼寝として選択している科目だ。
丈はそんな静かな授業は好きなので、寝ずに楽しく読書をするか、もしくは暇つぶしに授業も受けてやっている、といった具合だ。
ふと我に返り、机の上を見る。
先ほどまで解説が行われていたLesson10のプリントである。
「…おい。これ、持ってく?」
柔らかい紙で袖口を叩いた。男子は弾んだ声で丈の方に振り向く。
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