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丈は他人に関心を示さない。
自分から関わろうとはしないし、大変無害な自己中心的と表現もできる人間だ。
だが、この時ばかりはあまりの観察力の無さに呆れかえった。
目の前の男子生徒は、見事な金髪をして、吸い込まれそうな程深く、蒼い瞳をしていた。
プリントを差し出したまま、相手も大きく目を見開いて停止する。
金髪の生徒も気まずそうにしながらも、やはり次の時間のことを考え、渋々訳を受け取る。
そのまま彼は教室を出て行った。
本当に男だったのかという驚き、
あまりにも早すぎる偶然の再会、
いや再会とは大袈裟であって単に自分の日頃の怠惰な生活がこうして予想以上に狭い世界を作り上げているのか、という具合に悩みが葛藤へと悪化する。
廊下から良く通る声が聞こえた。
先程の少年、改め男子生徒は、どうやら隣のクラスに居たようだ。
都合良く鳴ったチャイムにより思考は一旦断絶されることになる。
また巡り始めるのは終礼後であった。
男子生徒は律儀に丈のクラスが終わるまで教室の前で待っていた。
入口に近い丈は直ぐに廊下に出るので、お互いを発見するのは早かった。
それ以前に双方は目立つ外見をしている。
暗い色の頭に浮かぶ黄色と、
頭一つ飛びぬけて大きい生徒、
そもそも金髪の少年が丈に気付かなかったのも少し不思議なことだったのかもしれない。
目が合うと、まず金髪の少年はピラピラとプリントをかざした。
「…苗字、ぼくかわって読むの?」
「きっか。」
「あぁ、そう。きっかじょー、か。ありがとう。助かった。」
受け取った紙を丈は鞄に詰めようとした。
少年が自分を見ているような気がする、見上げるとその通りだった。
「俺、ますだゆえ。」
「…おぉ。」
綺麗な響きだが、字が思い浮かばない。
相手の苦悶の表情など予測のできることだったのか、
「悠久の悠に月で、悠月。」と付け足した。
成程、全く名前負けなどしていない。
真正面から改めて見ても、悠月は端正な顔立ちをしていた。
凛とした上品な猫を思わせる。
髪の毛はふわふわとゆるいウェーブを描いていて、肩にかかる程なので男子にしては少し長い。
階段で受け止めた時に一瞬女だと思ったことも仕方ない。
背は高くない、身体の線も細い。
ただ眼差しの力強さは、間違いなく男らしさを感じさせるものだった。
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