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「なぁ、夕貴」
昼休みの中庭で芝生に座り込み携帯をいじる俺と背中合わせで寄りかかる雅人がいつもの明るい声で俺を呼んだ。
「ん――?」
生返事を聞いて小さく笑った雅人が合わせていた背中を離し俺の顔を覗き込んだ。
「どうしたんだよ」
「……‥俺、学校辞める」
携帯をいじる指が止まる。
すぐに返事が出来なくて、驚いて開いた瞳で雅人を見つめた。
「マジで?」
「うん‥マジで」
いつもは優しい陽向のような笑顔がこの時ばかりは、悲しそうに眉が少しよった笑顔だった。
「何で急に……どうしてだよ!」
覗き込むような態勢を起こし雅人は膝を抱えてた。
「親が離婚するんだ……」
父親の母親に対する暴力が酷くて、でも母さんは俺が高校卒業するまで我慢しようとしたんだけど最近は俺にも手を出すようになって……あっ大丈夫だよ。これでも俺、今までも親父にやり返してたから!
そう言って拳をストレートに突き出した。
返す言葉が見つからない。
雅人がそんな目に遭ってたなんて気づきもしなかった………。
「もう限界なんだよ母さん……。だから近いうちに母さんの実家に行くことにしたんだ」
そんな話をしていても雅人はくすくすとおもしろい話でもしているかのように笑う。ちょっと眉を寄せて。
むかつく………。
何でおまえは笑ってるんだよ!
笑う雅人がむかつく。
雅人を殴った父親がむかつく。
雅人をこの俺から離す母親もむかつく。
この芝生、この6月の透き通った青空。
柔らかな風、俺たちを照らす初夏の日差し………。
今、全てがむかつく。
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