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別れの日がやってきた。
「またね。夕貴、裕二」
駅の改札口で最後の別れの言葉。返事をしない俺を見て苦笑いを浮かべる。
「逢おうと思えばいつでもあえるよ‥隣県だし」
雅人は俺の肩をたたいた。
「バイトでもするかな」
裕二は独り言のように言って小さく笑った。
「うん、俺もバイトしておまえたちに逢いに来るよ。また逢おう」
「雅人、行きましょう」
別れを惜しんでその場を離れない雅人を母親は促す。
「いつまで拗ねてるんだよ‥夕貴、おまえがそんなんだと雅人が行かれないだろ」
裕二が俺の背中をせっつく。
嫌だ。やっぱり離れたくない。子供じみてると思うけど。
雅人は俺にとって特別な親友なんだ!
雨がポツポツと降り始めてきた。
俯き両手を握る。その震える拳を雅人が触れようとした。その時。
いきなりの怒声が俺背後から飛んできた。
「雅人!早く!」
雅人の母親が悲鳴に似た叫びをあげた。
雅人は凍りつき強張った顔と視線を俺の背後に向ける。
「てめぇら何企んでんだ!」俺と裕二の間を一人の男が通り越し雅人の母親の髪をつかんで引きずり回した。
「やめてぇ―――!」
「親父!」
雅人はすぐに身を翻して父親の腕をつかんだ。
「てめぇはすっこんでろ!」
腕を払わた勢いで地面に叩きつけられた。
「雅人!」
俺は倒れた雅人に駆け寄る。痛みに顔をゆがめて今にも泣き出しそうにも見える雅人の目は恐いくらいに父親を睨みつけていた。
「やめてぇー!痛いっ!」
まだ髪をつかんだまま引きずり回している父親を憎悪の籠もった目でにらむ雅人は立ち上がり父親に向かって駆け出した。
「その手を離せよ!母さんが痛がってるだろ!」
思いっきり背中を蹴り込まれた父親は前に倒れ込んだ。と一緒に母親も倒れた。
俺は裕二を振り返ると、近くにいる野次馬に駅内の交番で警察官を呼んできて欲しいと頼んでいた。
俺は今何をしているんだ…?
俺は今どうすべきだ?
雨が激しくなってきたにも関わらず、野次馬が周りを囲み。裕二はもみ合っている三人の間に入り母親をその場から引き離すと隅の方へ逃がした。後を追おうとする父親を雅人と二人で阻止している。
俺はどうすればいい………。
怒声と制止する声と野次馬のざわめきが遠く聞こえなくなってきた。
「大丈夫ですか」
駆けつけた警察官が俺を立たせた。
警察官数人も父親の制止に加わる中に雅人が父親に首を掴まれていた。
「雅人が……雅人を助けて!」
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