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雨音が現実へと戻す。
あの後警察官に保護された雅人の首は赤く父親の手の後がついていた。
俺に勇気がなかった事を悔やんだ……。
もっと勇気があれば。
「ほんとに馬鹿」
呆れたように呟きながら、裕二は傘をかざす。
「いらねえよ」
もう一度押し返そうと裕二の腕を押したがびくとも動かない。
「いい加減にしろ‥風邪引く」
「別にかまわないさ…」
自傷気味に笑って見せると裕二はムッとした顔を一瞬見せるもその後はいつものように何も言わず俺の隣で傘を差している。
次の日、雅人から携帯に二度かかってきたが出ることはかなった。
あの時、何も出来ずに居たことが悔しくて惨めで…。
意気地がなくてほんの勇気の欠片もない自分が、赦せなかった。
「俺は雅人の友達じゃない……」
俯きうなだれる。
「何言ってるの?」
裕二は鼻で笑いながら言い返す。
「あの時の俺は最低だ………雅人を守ることも、何も出来ないでただ見ていただけで…最低だよ…」
「反省はしたいだけすればいい…でもお前からその理由でダチを辞めるとか‥馬鹿じゃないの」
雨音と裕二の声。
おまえに何がわかる!
おまえに……何が……
どんなに大切に想っていてもその想いだけでは守れないんだ。
「夕貴……」
俺の名前を呼ぶ優しく柔らかな声。俯いていた顔を上げる。
嘘だ……。嘘だ…。なんで?
「夕貴」
陽向のような暖かい笑顔。
「雅人…どうして?」
それ以上言葉が出ない。
「大変だったよ‥新幹線に乗って来たんだよ」
ゆっくりと俺の目の前に歩み寄る。傘同士がぶつかり、雅人は傘を背に倒してもっと近づいてきた。
「電話しても出ないから。来ちゃったよ」
可笑しそうに小さく笑う。雅人はいつもの雅人で、首の手形は紫色の痣となって細い首に巻き付いている。
「夕貴…もっと嬉しそうにしてよ」
ねぇ~裕二。と同意を求めまた笑った。
「ごめん…ごめん…雅人…」
俺は痛々しいその首を震える指先で触れる。涙が嗚咽と一緒に溢れ出した。
「ごめん…ごめん…止めに入る勇気がなくて俺は弱虫だ…」
雅人が俺を抱きしめた。
「そんな勇気…俺にはいらない……夕貴が傷つかなくてよかった……」
囁くように噛みしめるようにそう言ってくれた事で降り積もっていた後悔と自責の念が溶けだしていく。
……俺はまだ弱くて意気地がないけど、いつかきっと時が来たら大切な人を守れるくらいの勇気が持てるかな?
ねぇ…雅人。
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