戌 惑う

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 狛村志郎は困惑していた。事の子細を説明すると、次のようになる。  叔父方の親戚が訪ねてきたと思えば、その後ろに女が居たのである。  そして、親戚は言ったのだ。 「お前はこの娘(こ)の連れ合いになる。今日は顔合わせに来たのだ」――と。  そして今、その娘と客室に押し込められ、迂闊に何を喋れば良いかも分からず、額に汗をかいているのである。  志郎は困惑していた。  何時もなら中間である貞治に任せれば万事が上手く行くのだが、如何せん今回ばかりは同席と言うわけにもいかなかった。  つと見ると、女の方も畳ばかりに目を遣っていて、居心地の悪さを感じているようである。
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