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さてどうするか――そんな事を考えながら、ふと気付いた。
「そういやあ、名前は何て言うんだ?」
本来ならば、このような顔合わせには多大な下準備が必要になる。
しかしながら今回のこれはあまりにも突然の事で、志郎は相手方の名前すら知らなかったのだ。
「さなえと申します。此度は突然押し掛けまして……ご迷惑でしたでしょう?」
苦笑いを浮かべる。
「ま、まぁな……」
しまった貞治ならこんな野暮な返ししねえか。
嘆いたものの後の祭りである。乾いた笑いと共に、畳の縁ばかりを見ている志郎であった。
「おやおやおやおや! 全然喋ってないじゃないか!」
ぱしっと音を立てて唐紙が開けられた。客間に響く大声に、軽く目眩を覚える。
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