月、満ち満ちて

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 獅ノ介は目を見開いた。月光で伸びた影がおかしい。 「零く――」 「しのくん」  零は窓枠に背を預けて月を見上げたまま、零は獅ノ介の言葉を遮った。永遠に続きそうな時間の中で、月はひときわ大きく見えた。  獅ノ介の震えた呼吸だけが部屋に響く。静かな夜だ。木々のさざめきすら聞こえない。 「しのくん。夜が明けたら、皇士郎を呼んできてくれる?」 「零くん……足……」  零の、足の甲から短刀が伸びていた。否、突き刺さっていた。ふらりと零に近寄ると、足袋に冷たくなった液体がしみ込んできた。影かと思っていたそれは、零の血液だった。 「夜が明けたら、皇士郎を呼んできて」  畳が吸いきれない鮮血が、じわじわと広がる。 「自分で……やったのかい……?」 「他者にやられるほど、なまってないさ。そんなことより、皇士郎を――」  どうして、という問いは、なによりの愚問に思われた。短刀は、足を貫通して、足を置いている敷居に深く刺さっている。  ――自身を繋ぎ止めるかのように。  獅ノ介は、息を深く深く吐いて、零の足に突き刺さった短刀から目を逸らした。 「皇士郎を呼んでどうするんだい」 「皇士郎に美智子を追わせる」 「追わせるって……まさか」 「うん。殺させる」  零の淡々とした声に、獅ノ介は息をのんだ。 「零くん、それはさすがに――!」  零は懐から紙をとりだして、獅ノ介に突きつけた。獅ノ介を見上げる瞳は、夜の海によく似ていた。黒く、揺れている。 「美智子の、遺言なんだ」
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