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『雪村くん…1組の水瀬くんが呼んでる』 『……』 用件だけを言って去って行った後ろ姿を眺めた。 どうして君とこんなにも遠くなってしまったのかわからない。 『…ょくん!!…宵くん!!!!』 『うわっ!!びっくりした!』 『もぉ…何回も呼んだのに!!』 『ごめん…聖くん』 目の前で聖くんがぷうっと頬を膨らましていた。 聖くんとは中学の時からの友達で、気が置けない仲って言えるくらいの仲。 きっと、今の俺と君の距離よりも近しい関係だと思う。 頬を膨らましていた聖くんと世間話をしていると、 『水城!!お前に客だぞ』 それほど大きな声だった訳じゃないのに、君のことだと無意識に聞き分けてしまう。 気にしてない素振りを見せて聖くんと話ながら、こっそりと君を盗み見た。 君を呼び出したのだろう男と仲良さげに話した後、その男にエスコートされるように教室を後にした。 『……熊田も諦め悪いよな…』 ふと呟かれたそれに目を向けると、 『あっ!!花閏!!』 聖くんが嬉しそうに微笑んで、花閏もそんな聖くんの頭をポンポンと撫でた。 けれど、視線は君の去った方に向けられていた。 『熊ちゃんね、絶対羚を墜としてやる!!って言ってたよ』 聖くんが花閏にそう言ったのを聞いた瞬間、重い溜め息が口をついて出た。 『水城って本当に男にモテるよな…』 そう。 あの頃から可愛くて綺麗だった君は、そのまま育った為… 男と言うには少し中性的すぎて… 女の子だけでなく男をも魅了するようになっていた。 そして、 『もう…彼奴のことはいいじゃん』 『あっ…ごめん』 『宵くん本当に水城嫌いだよな』 周りの俺と君の仲の認識は最悪だと言えるものだった。 本当は、君の一番近くにいたいのに… いつからか離れた距離に、俺は踏み込むことが出来なかった。 その虚勢がこれだ。 俺の方が君を嫌ってるんだと見せること…。 子供の考えるようなことだが、俺にはこれしか浮かばなかった。 .
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